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LaQに学ぶ 中小企業のマーケティング

LaQに学ぶ 中小企業のマーケティング #8 ブランドは壊さず、置き場所だけ変える——学研ニューブロック「ローリングQ」の再定義

ここまでの七回は、自分の会社の話でした。今回は、外から関わった事例を書きます。

2018年にヨシリツを離れたあと、私は会計の仕事を中心にしていました。そんな折、2021年の3月に、ヨシリツ時代から付かず離れずでお付き合いのあった学研ステイフルの福本社長から、「ヨシリツでやってきたLaQの商品企画とブランディング、販路開発の経験を、ぜひうちの会社で役立ててほしい」とお声がけをいただきました。顧問という立場で、商品の企画・開発とブランディングに関わることになりました。

その中で生まれたのが、「Gakkenニューブロック ローリングQ」です。

強いブランドほど、動かしにくい

学研のニューブロックは、一歳半から遊べる幼児向けの基礎造形玩具として、すでにブランドが確立していました。

これは強みですが、同時に枷でもあります。「ニューブロック=小さい子のブロック」という認知がはっきりしているほど、その年齢帯の外には出ていけません。四歳、五歳になった子は卒業してしまう。保護者も、上の子に買おうとは思わない。

商品が悪いのではなく、置かれている場所が決まってしまっている。第2回で書いた「良い商品と売れる場所は別問題」の、裏返しの形です。

そこで考えたのが、商品そのものを作り直すのではなく、対象年齢を引き上げて、市場を設定し直すことでした。

同じブランドのまま、誰に向けた商品かを引き上げました

構造的な強みに、一本の軸を足す

ニューブロックには、はっきりした構造的な強みがあります。パーツが大きく、差し込みが自由で、子どもでも大きな作品が簡単に作れることです。

この強みは残したまま、新しい遊びの軸として「レール」を足しました。ブロックのマス目に合わせて着脱できる、スロープ・ストレート・カーブ・ルーレットといったパーツです。

これで何が起きるか。ブロックは「形を作るもの」から、「ボールの通り道を設計するもの」に変わります。スタンダードセットでは、全長二メートルを超えるコースが組めます。どこで加速させ、どこで曲げ、どこで落とすか。思いどおりに転がらなければ、考えて直す。翌年に出たスパイラルタワーでは、ボールを上まで持ち上げる昇降機構が加わり、終わらないコースが作れるようになりました。

組み立てて終わりではなく、動かして試す。遊びに時間の軸が入ったことが、対象年齢を押し上げた一番の理由だと思っています。

パッケージで、誰の棚かを決めた

ここが、私のいちばん力を入れたところです。

ロゴでは、あえて「ニューブロック」の文字を小さく置きました。主役は「Rolling Q」のほうです。ニューブロックは幼児ブロックとしてブランドが確立しているので、その名前を大きく出すと、せっかく上げた対象年齢が、また下に引き戻されてしまうからです。

パッケージの方向は、小学校以上の男の子を意識して、大人が買っても恥ずかしくないホビー系にしました。幼児向けの売り場ではなく、ホビー玩具の棚に置いても成立する顔です。

第7回で、ブランドの一貫性はロゴで担保し、多様性は製品に渡す、と書きました。今回はその応用で、ブランドの主従を入れ替えることで、同じブランドのまま置き場所を動かしたことになります。結果として、小学三年生以上をスイートスポットとする商品として出すことができました。

変えない部分と、足す部分と、見せ方を変える部分を分けて設計しました

結果

スタンダードセットは、2023年7月20日に発売されました。対象年齢は四歳以上、ブロック132個とレール5種15個、ボール3個の計150ピースで、税込11,000円です。

同年、日本おもちゃ大賞2023のエデュケーショナル・トイ部門で優秀賞をいただきました。

LaQのときと、やっていることは同じ

並べてみると、構造は第2回から第7回までの話とほとんど同じでした。

想定していた顧客層と、実際に評価してくれる層がずれているなら、ずれているほうに合わせて設定をやり直す。LaQでは玩具問屋から幼児教育の現場へ、ローリングキューでは幼児から小学生へ。向きは違いますが、やっていることはセグメンテーションの引き直しです。

そして差別化の核は、どちらも商品の構造から取っています。LaQは面と面をつなぐ方式で曲面や球体が作れ、緻密な造形が可能なこと、ニューブロックは大きな作品が簡単に作れること。その強みに、新しい一手を掛け合わせる。

理論で言うと

二つ、申し上げたいことがあります。

一つめは、再ポジショニングは、新商品開発よりも投資が小さい、ということです。ローリングキューで新たに起こしたのは、レールのパーツとパッケージ、そして見せ方です。ブロック本体という一番お金のかかる部分は、すでにあるものを使っています。顧問先から「新商品を出したい」とご相談を受けたとき、私はまず、今ある商品を別の層に向け直せないかを考えます。損益分岐点の位置がまるで違うからです。

二つめは、ブランドの核は、動かしてはいけない、ということです。今回変えたのは対象年齢と見せ方であって、「大きな作品が簡単に作れる基礎造形玩具」というニューブロックの中身は一切変えていません。核を変えずに外側を動かすから、既存のお客様を手放さずに新しい層を取りにいける。逆に核まで動かしてしまうと、新しい層も取れないまま、今までのお客様だけを失います。

次回予告

第9回は、現在進行形の事例です。Yondemyという、子どもが読書にハマるオンラインの習い事を手がける会社が、SNS中心のマーケティングから書店・進学塾というリアルの場へ軸足を移し、そこで「効果を数字で見せる」ことによって伸びていった話を書きます。

(次回に続く)

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本連載の経営数値は、創業者一族の講演原稿(2002年・2006年・2010年・2022年)および研修資料に基づく概算値であり、監査済み財務諸表の数値ではありません。商品の仕様・価格・受賞は発売時点の公表情報によります。
筆者:吉條嘉家(公認会計士・税理士)/Kakitsu株式会社 

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