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LaQに学ぶ 中小企業のマーケティング

LaQに学ぶ 中小企業のマーケティング #4 一軒の書店からかかってきた電話——初めて、向こうから注文が来た

前回は、散髪屋とガソリンスタンドを三百軒以上回って、ほとんど売れなかった話を書きました。今回は、その回り方をしていたからかかってきた、一本の電話の話です。

「一週間足らずで完売したから、すぐ納品してほしい」

散髪屋とガソリンスタンドを回る過程で、1軒の本屋さんにも置かせていただいていました。相手を厳密に選んでいたわけではありません。入りやすいところに声をかけていた、というのが正直なところです。

そこへ、電話が入りました。

「商品が一週間足らずで完売したから、すぐ納品してほしい」
このとき何が起きたのかを、あとから何度も考えました。売れた金額は大したものではありません。それでも、この電話はそれまでの全部と性質が違っていました。

入社してからの二年あまり、注文というものは、こちらから頼んで、説明して、頭を下げて、やっと出してもらうものでした。玩具問屋にも、おもちゃ屋さんにも、散髪屋さんにも、全部こちらから持ち込んでいます。

この電話は、向こうからかかってきました。置かせていただいた側が、売れたから補充してくれと言ってきた。お客様からの、初めての自発的な注文でした。

同じ一件でも、こちらから取りにいった注文と、向こうから来た注文では、意味がまったく違いました

売れたという事実より、売れる理由が見えたこと

この一本が決定的だったのは、売上そのものではなく、「売れる場所の条件」が初めて観測できたからです。

散髪屋では、場所の性質は合っていたのに、そこにいる人の目的が合っていませんでした。書店の児童書コーナーは、そこが違います。親子が一緒に来て、長い時間滞在し、子どものために何かを選ぶつもりでいる。LaQのように、手に取って時間をかけないと良さが伝わらない商品にとって、これ以上条件の揃った場所はありませんでした。

散々外した末に、仮説の形がようやく具体的になりました。必要なのは「待ち時間のある場所」ではなく、「子どものために選ぶ気持ちで、親子が長く滞在している場所」でした。

そこからは書店に集中しました。一日に五、六軒の書店に新しく商品を設置して回り、毎月在庫を調査して、売れた分を請求する。やり方は散髪屋のときと同じです。違ったのは、置いた分が実際に売れていったことでした。
販売効率は、それまで回ってきたどの売り場よりも良いものでした。月末の電話が、在庫の確認から補充の相談に変わっていきます。実績が積み上がると、置いてくださるお店も、個人書店から大型の書店へと広がっていきました。

あとから整理すると、条件がいくつも重なっていました。当時の私たちに分かっていたのは、上の二つだけです


「うちはおもちゃ屋やないよ」

とはいえ、順調な営業ではありませんでした。
書店にとって、玩具は本来の商材ではありません。「うちはおもちゃ屋やないよ」と言われながら、小さな個人書店のオーナーさんを一生懸命口説く、という日が続きました。当てもなく営業先を探して、何日も自動車で走ります。

そういう日が重なると、おかしな考えが湧いてきます。自分のやっていることは、ガソリンを使って、飯を食って、社会的にはただ非効率なだけではないか。自分自身が社会悪のようなものではないか。公認会計士の資格まで取って、いつまでこんなことを続けるのだろう、と。

この頃、盛和塾に入れていただきました。塾長の「蟻の歩みのような小さな努力の積み重ねが大きな成果を生むのですよ」という言葉と、それを実践して京セラという会社を作られたという事実に、ずいぶん助けられました。小さな書店を一軒ずつ開拓していた時期に、あの言葉を聞けたのは運が良かったと思います。

理論で言うと

書店という売り場は、玩具業界にとって主戦場ではありませんでした。価格競争も、大手ブランドとの正面からの競合もない。そこに、親子が長く滞在するという売り場の性質と、知育という商品のイメージがそのまま重なりました。いわゆるブルーオーシャンです。

受け入れる側にも事情がありました。2000年前後の小売店は、IKEAや雑貨店など商品カテゴリー別に棚を組む売り場から、暮らしの場面を提案するライフスタイル提案型の売り場へと、考え方を変えようとしていた時期です。

書店でも児童書の棚に知育玩具が並ぶのは、その文脈にうまく乗りました。加えて、Amazonの日本進出で「本を並べているだけでは駄目だ」という危機感が、書店側にも出てきていました。もっとも、これは後から整理して分かることで、当時の私たちは、売れるから通っていただけです。

ただ、私たちはこれを分析して見つけたわけではありません。外し続けた実験の中から、たまたま反応のあった一件を拾っただけです。順番としては、分析が先ではなく、反応が先でした。

ここが、中小企業の実務では大事なところだと思っています。市場調査に使える予算も時間もない会社にとって、いちばん確かなデータは、相手から来た一件です。こちらが説明して取ってきた百件より、向こうから「もっとくれ」と言われた一件のほうが、情報としてはるかに濃い。顧問先と新規事業の話をするときも、私はまずそこを探します。

そして、この書店ルートには、もう一つ大きな意味がありました。問屋を通さない直取引で、しかも委託。取引条件そのものが、それまでとはまったく違っていたのです。

次回予告

第5回は、その取引条件の話です。玩具問屋に卸していたときと、書店に直接置かせていただくときとで、同じ商品の粗利が十ポイント以上変わりました。流通を変えると、損益計算書の形が変わります。
(次回に続く)

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筆者:吉條嘉家(公認会計士・税理士)/Kakitsu株式会社 


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