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LaQに学ぶ 中小企業のマーケティング

LaQに学ぶ 中小企業のマーケティング #3 「この商品は散髪屋で売れるぞ」——三百三十軒を回って、売れなかった話

前回は、玩具問屋と大型玩具店に売り込んで外し続けた二年の話を書きました。分かっていたのは一つだけです。商品は悪くない。置き場所が違う。
ただ、では正しい置き場所はどこか、という答えは持っていませんでした。そして、考えている時間もありませんでした。

あと六か月、という時期の提案

借入残高が底をつき、資金がショートするまであと六か月、というところまで来ていました。
そのときに父が言い出したのが、これです。
「この商品は散髪屋で売れるぞ」
根拠を聞くと、自分の行きつけの散髪屋に置いてもらっていた分が完売した、というだけでした。一軒です。サンプル数一です。

会計士として言えば、これは意思決定の材料になりません。正直、私は全く乗り気ではありませんでした。それでも走り出したのは、六か月ぐらいの辛抱ならという気持ちと、創業者である父に思い残すことがないように、という気持ちからでした。

メンバーは四人です。昔うちの下請けの仕事を請け負っていたという方、社長の古くからの友達であるパン屋さん、父、そして私。経営会議でも何でもありません。

完全委託で預けて回り、月末に電話で在庫を確認する。やり方は単純でした(店舗数は創業者一族の講演原稿に基づく概算です)


一日五、六軒。最終的に三百三十軒


やり方は単純でした。完全委託です。商品を預けて、「待っている間に遊んでみて、気に入ったら買ってください」とだけ説明して、置いて帰る。一日に五、六軒といったところだったと思います。

途中から、散髪屋さんよりまだ入りやすいということで、ガソリンスタンドにも置いていただくようになりました。最終的に、理髪店が二百店舗ほど、ガソリンスタンドが百三十軒ほどだったと記憶しています。

月末になると、置かせていただいた店舗に一軒ずつ電話を入れ、在庫を確認して、請求書を発行します。遠隔で実地棚卸をやっているようなものです。
そして、予想どおり、見事に売れていませんでした。

資金繰りの観点では、これは最悪の形でした。完全委託ですから、在庫はこちらの資産のまま相手の店に散らばり、売れるまで一円も入ってきません。出ていくのはガソリン代と人件費と、商品そのものです。回収は最短でも三か月後。六か月しかない会社がやることとしては、理屈に合わない実験でした。

なぜ外れたのか

いま整理すると、仮説の半分は当たっていて、半分が抜けていました。
当たっていたのは「体験してもらえる場所なら伝わる」という部分です。LaQは手に取って遊んでもらわないと良さが分からない商品で、散髪の待ち時間というのは、たしかに手持ち無沙汰な時間です。

抜けていたのは、そこに買う人がいるか、という部分でした。散髪を待っている大人は、子どもの玩具を買いに来ていません。待ち時間を埋めたいだけです。遊んでもらえたとしても、財布は開かない。場所の性質は合っていたのに、その場にいる人の目的が合っていませんでした。

前回の問屋は「場所が合っていなかった」失敗で、今回は「場所は惜しかったが、人が違った」失敗です。

もう一つ、検証のやり方も粗いものでした。月末の電話で分かるのは、売れた数だけです。何人が箱を開けたのか、開けた人が子ども連れだったのか、値段を見て戻したのか、そもそも店主が出してくれていたのか。そのどれも分かりません。売れなかったという事実は得られても、なぜ売れなかったかは、そこからは出てこない。いま顧問先の販促を一緒に見るときは、数字の手前に何を記録しておくかを先に決めるようにしています。

売上には結びつかなくても、残ったものが三つありました


それでも、無駄ではなかった

結果だけ見れば失敗です。ただ、この実験は三つのものを残しました。
一つめは、委託という取引形態を実地で覚えたことです。返品のリスクをこちらが負う代わりに、掛け率を高く設定できる。このときは単に「置いてもらう口実」でしたが、この形が後に収益構造そのものを変えることになります。これは第5回で書きます。

二つめは、接点の面積です。三百三十軒に商品を預けたということは、三百三十か所でLaQが人の目に触れていたということです。売れていなくても、置かれてはいました。そして、回っているうちに「うちには合わないけれど、あそこなら置くかもしれない」と教えてくださる方も出てきます。飛び込みで断られ続けていた二年間には無かった反応でした。

三つめが決定的でした。この回り方をしていたから、たまたま置いていただいていた本屋さんから、一本の電話がかかってきたのです。

理論で言うと

これはテストマーケティングです。仮説を立て、小さく試し、結果で検証する。教科書どおりの手順です。

ただ、教科書と違ったのは、仮説が社長の勘だったこと、検証が「月末の電話」だったこと、そして当たらなかったことです。それでも手順としては間違っていません。大きく張らずに、三百三十軒という現実の反応を、数か月で手に入れています。

顧問先とお話ししていて思うのは、中小企業にとって本当に怖いのは外れることではなく、試さないまま時間が過ぎることだ、ということです。外れた実験は、費用としては出ていきますが、確からしさという資産を残します。帳簿に載らないだけです。

そして、試している数が多いほど、偶然が舞い込む面積が広がります。うちの場合、その面積の端のほうに、一軒の書店がありました。

次回予告

第4回は、その電話の話です。「商品が一週間足らずで完売したから、すぐ納品してほしい」。販売店の側から注文が来たのは、これが初めてでした。そこから書店めぐりが始まります。
(次回に続く)

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本連載の経営数値は、創業者一族の講演原稿(2002年・2006年・2010年)に基づく概算値であり、監査済み財務諸表の数値ではありません。
筆者:吉條嘉家(公認会計士・税理士)/Kakitsu株式会社 


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