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LaQに学ぶ 中小企業のマーケティング

LaQに学ぶ 中小企業のマーケティング #1 在庫はあるのに、売り先がない——1995年、倒産寸前の会社に入った

はじめまして。公認会計士・税理士の吉條嘉家と申します。

この連載では、一つの中小企業が、倒産寸前のところから「売れる場所」を見つけて立ち直っていく話を、十回に分けて書きます。知育玩具「LaQ(ラキュー)」を作っているヨシリツ株式会社という、奈良県吉野の小さな会社です。私の父が創業し、私自身が1995年から営業と経営に関わってきました。

来年、公認会計士協会の研修でこの話をする機会をいただき研修原稿を作成しました。そのときに気づいたのは、ここで起きたことのほとんどが、教科書に載っているマーケティングの言葉できれいに説明がつく、ということでした。当時の私たちは理論を知って動いたわけではありません。資金が尽きる前に、できることを手当たり次第にやっただけです。それでも結果として、セグメンテーション、チャネル戦略、ブルーオーシャン、テストマーケティングと呼ばれているものを、順番にやっていました。

だからこの連載は、成功談としてではなく、追体験として書きます。各回の終わりに、その場の判断がどの理論に当たるのかを短く添えます。
連載を通して申し上げたいことは、一行で言えます。

良い商品と、売れる場所は、別問題です。

1995年7月に見た数字

私は大学卒業の年に公認会計士の二次試験に合格し、監査法人で上場企業の監査をしていました。その年、父の会社の経営が危ないということで、1995年7月に奈良へ帰りました。

会計の仕事をしていたので、まず財務の状況を確認しました。その年度の売上高は約6,900万円。経常損益は約1,100万円の赤字でした。問題はその前です。前年度が約2,500万円の赤字、その前の年度も約2,700万円の赤字。累積の欠損金は8,000万円を超え、借入金は約1億8,000万円。支払利息だけで売上高の10%を超えていました。

経理の人間として言えば、これは「削れる経費を探す」段階をとうに過ぎています。売上高の10%を利息が持っていく会社で、節約してひっくり返せる額ではない。売上そのものを作るしかありませんでした。

入社時に見た数字。経費削減で埋められる赤字ではありませんでした(創業者一族の講演原稿に基づく概算値です)


なぜそうなったか——主力商品が半分になった

会社は1983年10月、父が自分で開発したアイデア栓抜きの特許を商品化するために作った会社です。資本金400万円、銀行からの借入3,000万円。父はそれまで家業の牛乳屋をやっていただけで、会社勤めの経験すらありませんでした。

その栓抜き「セントル」は、瓶ビールの王冠をワンタッチで開けられる商品で、バブル期のノベルティ市場——ビールメーカーや販促代理店が配る景品の市場——でヒットしました。会社の生活は安定しました。

ところが1990年代に入って、二つのことが同時に起きます。缶ビールが主流になって瓶ビール自体が減ったことと、バブルが崩壊して販促予算が絞られたこと。栓抜きの売上は最盛期の半分以下になりました。

一つの商品が、自社の努力と関係のないところで半分になる。中小企業ではよくある話です。そして半分になってから次の商品を考え始めるのでは、間に合わないことが多い。

創業から入社までの流れ。新商品の開発は、売上が落ち始めてから始まっています


すでに新商品は完成していた

幸い、父はこの事態に手を打っていました。栓抜きの売上が落ち始めた数年前から、かねて構想のあった組み立てブロックの開発に着手していたのです。1993年に試作が完成し、1994年6月に発売されました。これがLaQです。もともとの発想は、栓抜きは機能が限られていますが、何でも作れる造形素材があれば、機能に縛られず、どんな生活雑貨も作ることができるということで、小物入れからシャンデリアまで生活雑貨がなんでも作れる造形素材というものでした。

LaQは、面と面をつなぐ独自の方式を採っています。普通のブロックは積み上げるので、できるのは直線的な形になりますが、LaQは面どうしを角度をつけてつなげるため、曲面や球体まで作れます。基本のパーツが2種類、つなぐためのジョイントが5種類、合わせて7種類だけ。当初の色は4色。当初のキャッチコピーは「NEW TYPE BLOCK」でした。

商品としては、はっきり差別化されて特許申請済み。子どもに渡すと本当によく遊ぶ。この点は、当時から疑っていませんでした。

それでも、会社は赤字を増やし続けていたのです。
在庫はあるのに、売り先がない
理由は単純でした。売り先がなかったからです。
もともとの取引先は、ビールメーカーや販促代理店です。そこへ「組み立てブロックができました」と持っていっても、買う理由がない。相手が求めているのは配りやすい景品であって、子どもが何時間も遊ぶ知育玩具ではありません。

商品は完成している。在庫もある。特許も取ってある。でも、誰に売ればいいのか分からない。その状態のまま、二年が過ぎていました。

中小企業の新商品が止まる場所は、たいていここです。作るところまでは、技術のある会社なら何とかなります。止まるのは、作ったあとです。そして、作ったあとで止まっている会社は、たいてい「商品が悪いのではないか」と考えてしまう。私たちもそうでした。

実際には、商品は悪くありませんでした。置く場所が違っていただけです。それに気づくまでに、私たちはさらに一年近くを使い、散髪屋とガソリンスタンドを三百軒以上回ることになります。

理論で言うと

ここまでの状況を、マーケティングの言葉に置き換えておきます。
商品の差別化(他社にない面つなぎ方式)は、できていました。できていなかったのは、STPのうちS(セグメンテーション=市場にどんな顧客層がいるか)とT(ターゲティング=そのうち誰を狙うか)です。私たちは、商品を作ってから顧客を探し始めました。しかも探した先が、既存商品の顧客でした。

これは順番が逆です。ただ、中小企業の現場では、この順番はしばしば逆になります。発明が先にあり、それを売る相手を後から探す。順番が逆であること自体は、悪いことばかりではありません。問題は、逆になったときに、顧客を「いま付き合いのある相手」の中から探してしまうことのほうです。

次回予告

第2回では、玩具問屋と大型玩具店へ飛び込み営業に行って、門前払いを受け続けた話を書きます。当時はテレビゲームブームの真っただ中「5,000円もする小さなゲームソフトが飛ぶように売れるのに、こんなかさばった地味なブロックなんか売れません」と言われました。あの言葉は、半分は正しかったと今は思います。

(次回に続く)

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